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『このすば』この紅魔の作家と演劇を|【このファンストーリー】

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この紅魔の作家と演劇を①

カズマは、アクアとあるえをつれて小劇場を訪れていた…
 

 
『アクア』
ねぇ、どうして私達が演劇をしなきゃいけないわけ?
 

『カズマ』
アクセルハーツの次の公演までの埋め合わせを、リア達に頼まれたんだ。
 
リア達には借りがあるからな。
 
ここいらで借りを返しておかないと、後が怖い…。
 

『あるえ』
なるほど、それで私に台本を書いて欲しいという訳か。
 

『カズマ』
すまなかったな、急に呼んだりして。
 

『あるえ』
構わないよ。興味がないわけではないからね。
 
だが、この人数で劇を成立させるのはなかなかだよ?
 

『カズマ』
急だったから、今動けるのはこれだけなんだ。
 
だから、あるえには役者も兼ねてもらうしかない。
 

『あるえ』
劇作家と役者を兼ねることになるとはね。
 
でも嫌いじゃない…そんな熱い展開、嫌いじゃない!
 

『カズマ』
意外とノリ気だな…目立ちたがりの紅魔族の習性か?
 

『アクア』
私は嫌よ。芸は請われて見せるものじゃないの。
 
私は私の美学に反することなんてしませんから!!
 

『カズマ』
頼むよ・・・そうだ、こういうのはどうだ?
 
演劇はお前の好きな内容にする!
 

『アクア』
やりましょう!魔王を倒す勇者の話を希望するわ!!
 

『カズマ』
ちょろい・・・。
 

『あるえ』
では内容は、勇者が魔王を倒す話で決まりだね。
 

『カズマ』
ああ、頼む。
 

『アクア』
はいはいはい!私はもちろん女神役をお願いするわ!!
 

『あるえ』
それは無理だね。
 
女神にパーティーにいるなんてあり得ない。
 
私が書く以上は、徹底的にリアルにこだわらせてもらおう。
 

『アクア』
ちょっと!私は本物の女神なんですけど!?
 
『あるえ』 へえ・・・でも、本当にパーティーに本物の女神がいたら
 
魔王なんて簡単に倒せてしまうはずだろう?非現実的だ!
 

『アクア』
そ、そうだけど!そうなんだけど!!
 

『カズマ』
まあ普通はそう思うよな。
 
俺もそう思っていた時期がありました・・・。
 

『あるえ』
主要パーティーは、勇者と魔法使いとお調子者の遊び人・・・。
 
勇者役はカズマにやってもらおうかな。
 

『カズマ』
ああ、わかった。勇者カズマ・・・いい響きだ。
 
『あるえ』 魔法使いは私がやるとして。
 
お調子者の遊び人はアクアにお願いするよ。
 

『アクア』
なんでよー!!
 

『あるえ』
アクアには1番ぴったりだと思うんだ。
 
勇者と魔法使いを支え、勇気づけるポジションだよ。
 

『カズマ』
仲間を支え、勇気づける・・・そう、まるで女神のようじゃないか!
 

『アクア』
女神・・・そうね!誰かを支えてこその女神よ!
 
私が見事に遊び人を演じてみせるわ!!
 

『カズマ』
本当になんてちょろいんだ・・・。
 
俺は支配人の日程のすり合わせをしてくる。
 
その後はチケットの配布と客集めだな・・・。
 

『アクア』
それじゃ私は衣装を作ろうかしら。
 
後であるえの中のイメージを聞かせてちょうだい。
 

『あるえ』
分かった。台本を書いてみて、他に必要な役を割り出してみるよ。
 
けど、確実に人数は足りないね・・・。
 

『カズマ』
1人2役で対応するしかないかな?
 
めぐみんもダグネスもいないんだし。
 
ほらほら、各自作業を急いで。
 
リア達に借りを返すためにも、頑張ろうぜ。
 

『アクア&あるえ』
了解!
 

そんな3人の盛り上がりを、じっと見つめる人影…
 

『???』
み、みんなで演劇・・・?
 
どうしよう、私も出たい・・・。
 
それに役者も足りてないみたいだし・・・。
 
私も出るって言えば、きっと喜んでくれるわよね?
 
そしてあわよくば、そのまま仲が深まって千秋楽後に打ち上げをしたり・・・
 
まるで友達じゃない!
 
明日、勇気を出して声をかけてみようかしら・・・。
 

 
水面下で動き出したとある少女の計画を、カズマ達は知るよしもなかった…
 


 

この紅魔の作家と演劇を②

『アクア』
カズマ、あるえ。衣装が出来たわよ!

 
『あるえ』
あれから一週間も経っていないのに。もう完成したのかい?
 

『カズマ』
早すぎる・・・客から金取るんだからな?
 
中途半端な出来だったら作り直してもらうぞ?

 
『アクア』
いいわよ?
 
その代わり、中途半端な出来じゃなかったら、土下座して私を女神だってあがめてもらうわよ?

 
『カズマ』
女神アクア様!偉そうなこと言ってすみませんでした!!
 

『あるえ』
すごいな・・・まるで商品みたいな完成度じゃないか。

 
『アクア』
ふっふーん、それほどでもありますけど~?

 
『カズマ』
この甲冑だって、本物にしか見えないな。
 
とても牛乳パックで作ったとは・・・ん?
 
なあアクア。この鎧、見覚えがあるんだが?

 
『アクア』
そう?真似をしたつもりはないんだけど。
 
勇者っぽい甲冑って聞いて、自然と頭の中にそれが浮かんだの!

 
『カズマ』
うーん・・・でも、あいつのに似てる気がするんだけど。
 
ほら、魔剣グラムを持っているあの、えーっと・・・
 
そうだ、確か「オロロギ」だ!!

 
『アクア』
「オロロギ」なんて名前は知らないわ。
 
魔剣を持ってるのはそんな名前じゃなくて「マルガリ」よ!!

 
『あるえ』
・・・2人が魔剣グラムを持つ勇者候補のことを言ってるのなら、
 
おそらく「ミツルギ」だね。

 
『カズマ&アクア』
ああ!

 
『アクア』
なんとなく覚えてて、それがデザインに表れちゃったのね。
 
どうりですんなり作れたわけだわ。

 
『カズマ』
「・・・君、紅魔族だね。今もあんな辺鄙な里に住んでいるのかい?
 
これからはソードマスターの僕と一緒に来るといい」

 
『あるえ』 は?

 
『カズマ』
「あ、勇者のパーティーだからって遠慮はいらないよ?
 
僕はそういうのを気にしない男なのさっ!」

 
『アクア』
似てる似てる、プークスクス!!

 
『あるえ』
イラッとするね。上級魔法をお見舞いしてもいいかい?

 
『カズマ』
すみませんやめてください。
 
勇者の演技の参考になるかと思っただけなんです。

 
『あるえ』
私の台本の中の勇者は、もっとちゃんとしっかりした勇者だよ。

 
『カズマ』
あいつも一応は、しっかりとした勇者なんだけどな・・・。

 
『アクア』
ところで、その台本はもう完成したのかしら?

 
『あるえ』
大筋はね。勇者が、さらわれたお姫様を救い出す王道の話だ。
 
人数も少ないから配役を削っていったんだが・・・。
 
どうしてもお姫様役と魔王役は削ることが出来そうもない。

 
『カズマ』
んー、それじゃあ誰かが1人2役を・・・。

 
『アクア』
それはちょっと厳しいわ。
 
劇と並行して、宴会芸の特訓も欠かせないし・・・。

 
『あるえ』
どこかに手伝ってくれる人がいればいいんだが。

 
『カズマ』
そんなに都合よく手伝ってくれるやつがいるわけ・・・

 
『ゆんゆん』
あら、あるえ?それにカズマさんにアクアさんも。
 
奇遇ね、こんな所で会うなんてびっくりだわ!

 
『あるえ』
・・・いたみたいだね。

 
『ゆんゆん』
も、もしかして何か困り事?
 
だったら・・・わ、私に相談してみない?
 

『アクア』
実は、演劇をやるのに人員不足で困ってるのよ。

 
『ゆんゆん』
あらそうなの?演劇かぁ・・・。

 
『カズマ』
なあ・・・ゆんゆんって、お芝居が得意だったりしないか?

 
『ゆんゆん』
と、得意じゃないけど。人前も苦手だし。でもどうしてもって…

 
『カズマ』
だよなあ。ゆんゆんは紅魔族のわりに、引っ込み思案だし。

 
『ゆんゆん』
え?

 
『アクア』
乗り気じゃない人を誘うのは悪いわよ。
 
ごめんね、ゆんゆん。無理に誘ったりしないから安心して。

 
『ゆんゆん』
そうじゃなくて。わ、私は、あのええっと・・・っ!!

 
『あるえ』
姫様役が出来る人がいるといいんだけど。
 
ゆんゆん、もし心当たりがいたら紹介してくれないか?

 
『ゆんゆん』
姫様役・・・分かったわ、見つけたら連れてくるから!
 
お姫様のような格好の人がいいのよね!?

 
『カズマ』
いや、役であって姫様のような人を探しているわけでは・・・

 
『ゆんゆん』
探してくるから!お姫様のような人を!!
 
そしたら考え直してねぇぇ!?

 
『アクア』
・・・ねえねえ。
 
ひょっとしてゆんゆん、一緒に出たかったんじゃない?

 
『あるえ』
だろうね。けど、種は十分に撒いたよ。
 
私の予想が正しければ、姫様の衣装は必要ないと思うよ。
 
きっと面白いことになる・・・ふふっ。

 
『カズマ』
ふーん・・・あるえがそう言うなら。姫様の衣装は置いといて、
 
魔王の甲冑を作る。アクアなら牛乳パックで作れるだろ?

 
『アクア』
そりゃ、参考になるものを提示してくれれば作れるけど・・・。
 
魔王の甲冑って、どんなのよ。ちっともイメージが湧かないわ。

 
『カズマ』
うーん、俺も実際に魔王を見たわけじゃないしな。
 
魔王の甲冑か・・・うーん・・・。
 
そうだ!ちょうどいいのがいたな!あいつを参考にしよう!!

 
『アクア』
なんか、嫌な予感・・・。
 

 
怪訝そうな顔のアクアをよそに。あるえは不敵な笑みを浮かべながら台本の仕上げの作業に取りかかったーー
 

 

この紅魔の作家と演劇を③

演劇の本番が近づき、小劇場では着々と準備が進められていたーー
 

 
『アクア』
さあ、出来たわ!
 
半日かけて魔王の城を作ってみたんだけど。どうかしら?

 
『カズマ』
すごっ!!お前・・・これ本当どうやって作ったの?

 
『あるえ』
見事なものだね。そんなに材料もなかったはずなのに。

 
『アクア』
ええ。我ながら、即席にしてはよく出来たと思うわ。
 
この後、城の周りにはお堀と跳ね橋を増設しようと思うの!

 
『カズマ』
こいつ、やり始めるととことんこだわるタイプだな。
 
別の仕事した方が幸せになれるんじゃないか・・・?

 
『あるえ』
全員素人の上に人手不足・・・最初はどうなることかと思ったけど、
 
なんとかなりそうな気がしてきたよ。

 
『カズマ』
アクアのおかげでセットや小道具はなんとかなりそうだ。
 
肝心の劇の中身は・・・?

 
『あるえ』
台本なら出来てるよ。アクアのセットと同じく、会心の出来だ。
 
さあ・・・とくとご覧あれ!
 
2人共、台本には目を通したね?
 
それじゃあ早速、練習を始めよう。

 
『アクア』
「勇者様~!お姫様がさらわれたやんすよ~!!」
 
・・・ねえ、ここって深刻な場面よね?
 
こんなバカみたいな喋り方でいいのかしら?

 
『あるえ』
大丈夫、過剰なくらいで丁度いい。
 
遊び人が深刻になってしまったらキャラ崩壊だ。
 
「おお、なんということか!さらわれた姫君を救い出すため・・・。共に行きましょう、勇者カズマ様!!」

 
『カズマ』
「ああ、分かっている。俺はこんな日が来ることを予感していた。
 
俺の中に流れる勇者の血が、魔王を倒せと囁くんだ!!」
 
勇者・・・ああ、なんていい響き。
 
誰よりも気高く、仲間に慕われ、そして最後には姫様と結婚・・・。
 
これだ・・・これが俺の求めていた異世界生活だぁぁぁ!!
 

『アクア』
ちょっとカズマさん、次の台詞は?
 
あとこの物語はフィクションだからね?

 
『カズマ』
人が浸ってる時に水を差しやがって・・・。
 
けど、人数が少ないと台詞数が多いな。覚えられるかな?

 
『あるえ』
そう長い劇じゃないしね。
 
本番までまだ少し時間もある、十分じゃないかな。

 
『アクア』
そうよそうよ。暗記なんて、女神の私にかかれば余裕ね!!

 
『カズマ』
はいはい。そういや、この次のシーンだけど。
 
魔王と姫様のやり取りだよな?これどうするんだ?

 
『アクア』
衣装は言われた通りに作ったわよ。これでいいんでしょ?

 
『カズマ』
うお、すごい出来だな・・・。
 
魔王軍幹部のベルディアそのものだ!

 
『アクア』
魔王討伐を掲げる女神である私が、演劇の中だけとは言え魔王軍の手先を模倣するなんて・・・!!
 
本気で嫌だったのよ?
 
でも、自分の作品で手を抜くのは許せないし完璧に仕上げたわ!

 
『カズマ』
妙なところで律儀だな、こいつは・・・。

 
『アクア』
ちなみに、中に入って動かせるようになってるの。
 
素材はもちろん、お財布にも環境にも優しい牛乳パックよ!

 
『カズマ』
中に入れるなら、魔王は1人2役でもいけるか。
 
出番がないやつが交代で入ろうぜ。
 
あとは姫様役だけど・・・。

 
『あるえ』
ああ、それなら私に心当たりがある。
 
もうすぐ来るんじゃないかな・・・。

 
『ゆんゆん』
・・・あ、あら!偶然ね!?

 
『あるえ』
ほら、来たみたいだ。

 
『ゆんゆん』
今日もいいお天気・・・ずばり、演劇日和だわ!

 
『アクア』
ゆんゆん・・・その格好、どうしたの?

 
『ゆんゆん』
えっ、この服のこと?
 
たまにはこういうお姫様みたいな格好をしてみたいなと思って!
 
あ、そう言えばお姫様役を探してたのよね?
 
丁度私もお姫様みたいな格好をしてるし・・・本当に奇遇ね!

 
『カズマ』
・・・姫様役で劇に出たいって、バレバレだな。

 
『あるえ』
丁度いいところに来たね、ゆんゆん。
 
手が空いてるなら、是非ともお姫様役やってくれないか?

 
『ゆんゆん』
で、でもお姫様なんて大役、私にこなせるか・・・

 
『あるえ』
ああ、不安ならいいよ。別に木の役でも・・・。

 
『ゆんゆん』
木!?人ですらないじゃない!!

 
『あるえ』
人じゃない役は嫌なのか。
 
仕方ない、今回の演劇にゆんゆんの出番は・・・

 
『ゆんゆん』
おおおお、お姫様役がいい!みんなと舞台に立ちたいの!!

 
『あるえ』
了解。はい、これが台本だよ。
 

『ゆんゆん』
え・・・い、いいの?

 
『あるえ』
ああ。久しぶりにゆんゆんをからかえて、楽しかったしね。

 
『ゆんゆん』
・・・あるえのばかあああああ!!

 
『アクア』
ちゃんとゆんゆんの台本も用意してるなんて。
 
あるえって、なんだかんだ面倒見がいいのかもね。

 
『カズマ』
そうだな・・・俺達も台詞を覚えないと。
 
セットだけ豪華で、役者が微妙とか言われたくないからな。
 

 
新たな仲間ゆんゆんを加え、カズマ達は練習を続ける。本番はもう1週間を切っていたーー
 

 

この紅魔の作家と演劇を④

『アクア』
「ゆ、勇者様!?」

 
『カズマ』
「大丈夫だ、しかし・・・魔王め、なんて卑劣な!!」

 
『あるえ』
「姫は?姫は無事なんだろうな!?」

 
『ゆんゆん』
「アーレー、ユウシャサマータスケテー・・・」

 
『カズマ』
うっわー・・・。

 
『ゆんゆん』
どうしたの?次はあるえの台詞よ?

 
『あるえ』
いや、それはわかってるんだが・・・気になることがあってね。
 
一旦休憩にしよう。

 
『ゆんゆん』
え、まだ練習も始めたばっかりじゃ・・・。

 
『カズマ』
いや、無理はよくない。喉を休めるのも役者の仕事だ!
 
10分後に、魔王との決戦シーンから再開しよう。

 
『ゆんゆん』
わ、分かったわ。声を張ると喉が渇くわね・・・。
 
水分補給をして喉のケアをしないと。

 
『アクア』
カズマカズマ、ちょっとこっちに来てちょうだい。
 
ゆんゆんのことなんだけど・・・

 
『カズマ』
皆まで言うな。分かってる・・・あの演技だろ?
 
見事な棒読みだったな。

 
『アクア』
なーんか「やりきった」みたいな顔してお茶飲んでるけど。
 
いっそクビにしてあげた方が本人のためでもあるんじゃない?

 
『カズマ』
かといって、もう時間もない。
 
代わりの役者を探すわけにもいかないだろ・・・。

 
『アクア』
じゃあどうするのよ!?

 
『あるえ』
・・・少し時間が欲しい。
 
台本を書き換えてゆんゆんの台詞を減らしてみよう。

 
『カズマ』
・・・というわけで、
 
お姫様という大役をこなすゆんゆんの負担を少しでも減らすために、あるえに台本を調整してもらった。

 
『ゆんゆん』
ふ、負担なんて。私は平気よ、わざわざ変更しなくても・・・。

 
『あるえ』
負担は分け合えば半分になり、喜びは分け合えば倍になる。
 
友達ってそういうものじゃないかな?

 
『ゆんゆん』
と、友達・・・そうよね、みんなありがとう!!

 
『カズマ』
ナイスフォローだ、あるえ!!
 
これで傷つけずに台詞を減らすことが出来る!!

 
『アクア』
はい、これがゆんゆんの新しい台本ね。
 
台詞はラストのここ。勇者に助けられた後ね。
 

『ゆんゆん』
「ア、アリガトウユウシャサマ。アイシテマス・・・」

 
『カズマ』
お、おう・・・。
 

『あるえ』
ゆんゆん、きみの台詞はその一言だ。
 
とても大事だから、全力で挑んでくれ。
 

『ゆんゆん』
わ、分かったわ!任せてちょうだい!!
 
最高のフィナーレを迎えるために・・・!!
 
「アリガトウユウシャサマー、アイシテマスー!」 『あるえ』 そ、そうそう。その調子・・・
 
でも、姫様役で登場するのは魔王が退場した後でいいよ。
 

『カズマ』
魔王が出ている間はこの甲冑の中に入って、不気味な感じでカクカク動いてくれ。

 
『ゆんゆん』
はい、わかりました・・・
 
ちょっと中に入ってみますね。

 
『アクア』
ゆんゆんってば、お姫様というよりほとんど魔王役ね。

 
『あるえ』
苦肉の策ではあるけどね。
 
魔王も動きのみで、台詞を全て削るのは大変だったよ。

 
『ゆんゆん』
うんしょ・・・こ、こんな感じでいいかしら?
 
ど、どう?魔王っぽく動けてる?

 
『アクア』
ひっ!なんだか不気味なんですけど・・・。

 
『あるえ』
いい調子じゃないか。ゆんゆんのフレッシュな演技が、魔王のリアリティを増しているよ。

 
『ゆんゆん』
あ、ありがとう・・・ってあれ?私、褒められてる?

 
『カズマ』
よし、じゃぁ今日の合同練習はここまでにするか。

 
『アクア』
そうね。私はセットの仕上げと小道具があるし。
 
凝り出したら、なかなか楽しいのよね・・・。

 
『カズマ』
俺はこれから宣伝しに行ってくるよ。
 
公演のチラシも作ったしな。

 
『あるえ』
私も手伝おう。渾身の演劇を、より多くの人達に楽しんでもらいたいからね。

 
『ゆんゆん』
みんなでお出かけ・・・あの、わ、私も・・・

 
『あるえ』
ゆんゆんは居残りで。練習をしておいてくれ。

 
『ゆんゆん』
ええっ!?

 
『アクア』
そうね。本番は明後日なんだから。
 
早く台詞をマスターしてもらわないと!

 
『カズマ』
チラシ配りは俺達に任せて、練習に専念してくれ!

 
『あるえ』
魔王の甲冑の動きもね。期待しているよ。

 
『ゆんゆん』
あ・・・みんな行っちゃった。
 
でも期待してるって・・・その期待に応えなきゃ!
 
「ア、アリガトウユウシャサマ、アイシテマス・・・」
 
「アリガトウユウシャサマ、アイシテマス・・・」
 
もっと会えた喜びの感情を込めた方がいいかしら?
 
「アリガトウユウシャサマ、アイシテマス・・・!」
 
「アリガトウユウシャサマ、アイシテマス・・・!」

 
『デュラハン風の甲冑』
グ・・・ガ・・・

 
『ゆんゆん』
え!?今、甲冑が動いたような・・・気のせい?
 

 
甲冑が気になりながらも、ゆんゆんは真面目に練習を続ける。運命の公演日は目前に迫っていたーー
 


 

この紅魔の作家と演劇を⑤

『カズマ』
いよいよ本番だ、出来ることは全部やってきたはず。
 
お前ら、準備はいいな!?

 
『アクア』
当然よ。
 
この日のために血の滲むような特訓を重ねてきたもの!

 
『あるえ』
心地いい緊張感だ・・・封じられた左目が疼くね。

 
『ゆんゆん』
大丈夫、みんなで力を合わせて頑張ってきたもの・・・。
 
そうよ!みんなで力を合わせて、頑張ってきたもの!!
 
最後の練習をしておかないと。
 
「アリガトウユウシャサマ、アイシテマス・・・」

 
『カズマ』
やっぱ棒だ・・・大丈夫なのか?

 
『あるえ』
台詞も大事だけど、私とゆんゆんは演出もやるんだ。
 
それを忘れないでくれよ?

 
『劇場支配人』
お客さんも満員です。もう間もなく開演の時間ですよ?

 
『カズマ』
はい、すぐに行きます!!
 

 
そして、いよいよ劇場の幕が上がるーー
 
『カズマ』
「俺が・・・勇者・・・?薄々気づいていたんだ。俺が周りの人とは違うって・・・」
 
「よし、行こう。魔王にさらわれた姫と、世界を救いに!それがこの勇者カズマの生まれてきた意味だ!!」

 
『あるえ』
「勇者様に仇なす輩は、この私が許さない!雷(イカヅチ)の裁きを受けよ!!」
 
「カースドライトニング!!」

 
『観客A』
おぉ、すごい迫力だな。本物の魔法か?

 
『観客B』
みたいだな。上級魔法を使った演出なんて・・・。
 
小劇場の舞台と思ってたけど、こいつは楽しめそうだ!

 
『アクア』
「見えた、あれが魔王の城!さあ囚われのお姫様を・・・」
 
あれ、台詞なんだっけ?
 
こういう時は、えっとえっと・・・花鳥風月~♪

 
『観客C』
なんだかよくわかんねーけど、いいぞー!姉ちゃーん!!

 
『カズマ』
よし、なんとか誤魔化せたみたいだ!
 
このまま告ぎの場面に移るぞ・・・!

 
『アクア』
「この先に魔王の城が!しかしこんなに風が強いと・・・くっ!?」

 
『ゆんゆん』
えっと、えっと・・・「トルネード」ッ!!

 
『観客D』
おお、すげぇ風だ!こんなに臨場感のある演劇は初めてだ!!

 
『カズマ』
よしよし。ゆんゆんも、演出を頑張ってくれてるみたいだな。
 
客の反応も上々だし・・・。
 
この調子でいけば、リア達にもきっちり借りが返せる。
 
演劇で儲ける方法も探れるし、まさに一石二鳥だぜ!
 

 
そして演劇は進み、物語はいよいよ佳境にーー
 
『カズマ』
「邪魔だモンスター!!はぁぁぁぁぁっ!!」

 
『あるえ』
「くっさすが魔王の城!魔物のレベルもこれまでとは桁違いだ・・・!」

 
『カズマ』
「どこに恐ろしい罠が仕掛けられているかわからない。俺から離れるなよ!!」
 

『アクア』
「承知でやんす!けど魔王は一体どこに・・・」
 

『デュラハン風の甲冑』
ココダー・・・キャハハハハ。

 
『あるえ』
出たな魔王・・・って待ってくれ。
 
魔王の登場はこのタイミングじゃない。

 
『カズマ』
ゆんゆん、出番が早いって!!いったんはけろ!!

 
『デュラハン風の甲冑』
キャハハハ・・・キャハハハハハッ・・・!!

 
『カズマ』
おい、その不気味な笑い声もやめ・・・ん?

 
『ゆんゆん』
カズマさん!私じゃない!それ私じゃないから!!

 
『カズマ』
あれ?ゆんゆんは舞台袖にいる?
 
じゃあこの甲冑の中の人は一体・・・?

 
『デュラハン風の甲冑』
悪戯じゃないよ、キャハハハハ!

 
『アクア』
カズマ、下がって!
 
その甲冑から嫌なにおいがプンプンするわ!!

 
『あるえ』
まさか、ゴーストが鎧に取り憑いている!?

 
『ゴーストアーマー』
キャハハハハ・・・この鎧、すごくいい!
 
こんなに素敵な依り代は滅多にないよ!!

 
『アクア』
ゴーストの分際で私が作った鎧に取り憑いたことは許さないけど、
 
あなたの見る目は間違ってないわ!!

 
『カズマ』
褒められて喜んでんじゃねえ!
 
てかあれか、もしかしてまた例の体質か!?
 
アンデッドを呼び寄せる体質のせいで、ゴーストが鎧に取り憑いたっていう・・・。

 
『アクア』
違うわ、濡れ衣よ!それに仕方ないじゃない!!
 
私の溢れ出る神聖なオーラは抑えきれないんだから!!

 
『カズマ』
お前ってやつは!
 
毎度毎度、問題を起こしやがって!!

 
『あるえ』
複数のゴーストが取り憑いているみたいだね。

 
『ゴーストアーマー』
そうだよ。あとこれ、魔王軍幹部のベルディアの甲冑だよね?
 
いつもよりすごい力が出せそうだな・・・キャハハハ!!

 
『カズマ』
まあ牛乳パック製だけどな・・・。

 
『観客A』
おい、様子がおかしくないか?

 
『観客B』
あれって、前にアクセルの街に来た魔王軍幹部だよな?
 
まさか本当に復活したとか・・・。

 
『カズマ』
まずい!観客が騒ぎ始めたぞ・・・。

 
『あるえ』
落ち着いて。たとえゴーストだとしても・・・。
 
倒してしまえば問題ない!
 
ゆんゆん!舞台に上がって!!

 
『ゆんゆん』
え、あ、ええっと・・・はい!

 
『あるえ』
「姫、今こそ、この魔王を共に倒しましょう!!」

 
『カズマ』
あるえのやつ・・・演劇に見せかけて倒そうとしてんのか。
 
確かにその方がパニックにならないだろうけども。

 
『あるえ』
「さあ、行きますよ勇者様!!今こそ魔剣の力を使うのです!!」

 
『カズマ』
「姫のためにも!世界のためにも!!」
 
あーもう!勇者カズマの力を見せてやるよ!!
 
行くぞ魔王!!

 
『ゴーストアーマー』
キャハハハハハ~!!
 

 

この紅魔の作家と演劇を⑥

『あるえ&ゆんゆん』
「ライトオブセイバー」ッ!!

 
『ゴーストアーマー』
グギギギギ・・・!!
 

『カズマ』
動きが止まった・・・今だ!!

 
『アクア』
任せてちょうだい・・・。
 
「セイクリッドターンアンテッド」ッッッ!!!
 
『ゴーストアーマー』 ギャァァァァァァァ・・・!!
 

 
アクアの魔法により、ゴースト達は光の柱の中で天に召されてくーー
 
『カズマ』
ふぅ・・・本物のベルディアほどじゃないけど。
 
なかなかの強敵だったな。

 
『あるえ』
体が牛乳パックで出来ていたのが、唯一の救いってところかな。

 
『ゆんゆん』
ボロボロになって・・・ただの牛乳パックに戻ったのかしら?
 

『アクア』
うう・・・私がせっかく作ったのに、渾身の逸品だったのに・・・。

 
『カズマ』
てかまあ、お前がゴーストを呼び寄せなかったら壊す必要はなかったんだけどな。

 
『観客A』
すげー迫力だったな。もしかして本当のモンスター?

 
『観客B』
まさか、演劇中にそんな危険なことを・・・?

 
『カズマ』
やばい・・・!
 
もしかしてチケット代を返せとかクレームが・・・?

 
『観客C』
いいぞー!!!!

 
『カズマ』
えっ・・・?

 
『観客A』
すごかったぞ!本物の戦闘みたいだ!!

 
『観客B』
なんって緊張感だ!息をするのも忘れちまったぜ!!

 
『観客C』
こんな演劇なら、また見てみたいもんだ!!

 
『カズマ』
演劇って・・・戦闘が入って、もう物語は無茶苦茶だけどな。

 
『アクア』
そうよカズマ、これはチャンスよ!
 
演劇が脱線したことを今のうちにうやむやにしちゃえば・・・。

 
『あるえ』
ああ、確かにこの勢いなら、終わりの挨拶をしてこのまま幕を下ろせるね。

 
『ゆんゆん』
ええ!?ちょっと待って!!
 
私、まだ練習した台詞を言ってな・・・

 
『カズマ』
ありがとうございました!
 
皆さん、ありがとうございました!!

 
『ゆんゆん』
ちょっとねえ、話を聞・・・

 
『アクア』
大反響御礼!感謝の花鳥風月~♪

 
『あるえ』
脚本は紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指す者!
 
あるえ!

 
『ゆんゆん』
あ~ん、もう!せっかく練習したのに~!!
 

 
こうしてカズマ達の演劇は、トラブルに見舞われながらも盛況のうちに幕を閉じたのだったーー
 
翌日。

 
『カズマ』
いやあ、劇場の支配人に呼ばれて会ってきたんだけど。
 
「是非またお願いしたい」って言われちゃったよ。
 
あれから「次の公演はいつだ」って問い合わせが殺到してるらしくてさ。

 
『アクア』
すごいじゃない、やっぱり私の魅力のおかげね!!

 
『カズマ』
アクアの芸や、演出だけじゃなく。
 
話も気になるから、今度はちゃんとしたエンディングが見たいって声もあるらしいぞ。

 
『あるえ』
ふふっ、それは作家冥利に尽きるね。
 
演劇か・・・なかなか楽しい経験だった。
 
ゆんゆんもそう思うだろう?

 
『ゆんゆん』
・・・。

 
『カズマ』
ゆんゆん?

 
『ゆんゆん』
せっかく台詞、練習したのに・・・。
 
お友達との舞台、楽しみだったのに・・・。

 
『アクア』
ちょっとカズマさん、ゆんゆんったらどうしちゃったのかしら?

 
『カズマ』
あー・・・最後、うやむやで終わったからな。
 
不完全燃焼なのか?

 
『ゆんゆん』
当然じゃないですか!
 
舞台の上で練習の成果を見せて、みんなに喜んでもらいたかったのに・・・!

 
『アクア』
大丈夫、またやってくれって声もあるそうだし。
 
練習の成果はその時まで温めておけばいいんじゃない?

 
『ゆんゆん』
えっ、本当に・・・?

 
『あるえ』
次にやる時は、配役を変えてみるのも悪くない。
 
せっかくだから、ゆんゆんが勇者をしてみたらどうだい?

 
『ゆんゆん』
え、私が・・・勇者!?

 
『カズマ』
いいんじゃないか。
 
それじゃあ次は俺が魔王をやるよ。

 
『アクア』
私は当然、お姫様よね。

 
『あるえ』
それじゃあ、次は脚本を変えて魔王の従者役でもやろうかな。

 
『ゆんゆん』
いいわね、なんだか楽しそうで・・・って、あれ?
 
勇者のパーティー、私だけじゃない!!

 
『あるえ』
ふふっ・・・まあ冗談はこれくらいにして。
 
またみんなで舞台に立てる日が来ることを祈っているよ。
 
さて、私はそろそろ里へ帰るとするかな。
 
おかげで、素敵な小説が書けそうだ。
 

 
いつかまた皆で舞台に上がるその日に思いを馳せ。あるえは新作の執筆へと取り掛かるのだったーー

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